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エレジー・唄とソネット

エレジー・唄とソネット

シニシズムに覆われた官能 エロティシズムの哄笑 「形而上派」詩人の恋愛詩篇。

著者 ジョン・ダン
河村錠一郎
ジャンル 文学・思想・芸術 > 文学・思想・芸術2
出版年月日 2007/08/25
ISBN 9784329020147
定価 本体2,500円+税
在庫 在庫あり
 

内容説明

マニエリスム文学の絢燗たる開花をみたエリザベス朝時代に沸然と輩出した一群の詩人達のなかにあって、直截な表現と多彩な幻想に富むジョン・ダンは最も傑出していた。彼は、柔弱なハムレット的懐疑と異る強靭な断定的懐疑を基底に据え、男と女との基本的な人間関係に対する不安と幻滅、体制としての宗教、政治としての宗教の否定、そして自らの生そのものに対する猜疑の念を生涯抱き続けた。初期の恋愛詩を編纂した本書は、醜怪な性の傷口から死を経巡る暗闇にはしる嘲罵の詩想と、冷酷なシニシズムに覆われた露骨な官能と、人間の廃墟を打砕くエロティシズムの哄笑とで、自己の生の軌跡を赤裸々に謳いあげるマニエリスム詩文学の絶顛をなす。艶美な変幻に満ちた恋愛詩、緊迫した昴揚感の漲る宗教詩と鋭利な冷笑を含んだ諷剌詩を残しながらも、十八世紀末にコールリッジに再発見されたが、完全な復活は二十世紀になってエリオットによって「形而上派」の代表詩人として評価されるまでまたなければならなかった。

 

蒸留器の甘い薔薇の蒸気
熱せられた葡萄から滴る甘い液
太古の東方の地に産せる万能の香油
さこそわが恋人の乳房に宿る汗の露
女のあそこの腫物が破れて流れる精液まじりの膿
それが君の恋人の額を汚す臭い汗の泡
あるいは 敵軍包囲のサンセール人が
飢えをしのぐにやむをえず 短靴 長靴
その他ありとある些かでも栄養分のあるものを
煮たてだしたる澱のよう あるいは
黄金色に塗った錫を台にした卑金属の贋宝石
あるいは疣 あるいは蚯蚓脹れ それが君の恋人の皮膚の汗
………………………………………………………………………
ジュピターの幸運の壷 さこそわが恋人の美しい乳房
虫に喰われた幹か 土の肌に覆われて中は腐臭の
墓場 それが鮫膚の 君の恋人の胸
たおやかなすらりと延びた茎の先 うちふるえるは
すいかずら さこそわが女の腕 わが女の手
ざらざら肌の楡の枝 狂い病か罪障か
鞭打たれた朽葉色の男の膚か
陽に干からびた城内付近の街道か
君のいい女の皮膚の具合は涙を誘う鞣し皮
その痛風やみの手は短く節くれだって
一束のでこぼこした人参
   (本書「比喩」より)

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